生分解性プラのポリ乳酸が精子に悪影響?マウスで判明
2025年1月27日、北京大学第一病院の姜輝教授チームなどは材料科学分野の学術誌ACS Nanoに発表した論文を紹介します。
この研究は、「環境にやさしい」とされる生分解性プラスチックのひとつであるポリ乳酸(PLA)が、実は体内で分解されるとマイクロプラスチックやナノプラスチックになり、雄の生殖機能に悪影響を及ぼす可能性があるかどうかを調べたものです。
【研究の流れと主な発見】
体内への取り込みと分布
マウスがPLAのマイクロプラスチックを摂取すると、消化器官で分解され、非常に小さなPLA粒子(ナノプラスチック)になります。
これらの小さな粒子は、血液精巣関門(精巣を守るバリア)を通り抜け、精子が作られる場所にたまります。
精子への影響
長期間PLAにさらされたマウスは、精子の数が減ったり、運動能力が低下したり、形が異常になったり、性ホルモンのバランスが崩れるなど、明らかな生殖障害を示しました。
細胞内でのダメージのメカニズム
PLAは精巣の保護バリア(BTB)を傷つけるだけでなく、精子やその周りの細胞の「ミトコンドリア」(エネルギーを作る部分)の働きを阻害しました。
その結果、ミトコンドリアから有害な活性酸素が過剰に出され、酸化ストレスという状態を引き起こして、さらなるダメージにつながりました。
特に、非常に小さいPLAナノプラスチックは、精子のミトコンドリアに入り込み、その構造を破壊し、ダメージの程度は摂取量に依存していました。
遺伝子への影響
細胞内の遺伝子の働きを調べたところ、PLA粒子が精子形成に必要な重要な遺伝子の働きを阻害していることがわかりました。
【まとめ】
この研究から、ポリ乳酸が分解されると生じるマイクロ・ナノプラスチックが、精巣を守るバリアを破り、エネルギーを作る細胞の部分(ミトコンドリア)を損傷することで、精子の形成や機能に大きな悪影響を及ぼす可能性が明らかになりました。つまり、生分解性プラスチックであっても、その分解産物が生殖能力に害を与えるリスクがあるということです。
参考文献
Polylactic Acid Micro/Nanoplastic Exposure Induces Male Reproductive Toxicity by Disrupting Spermatogenesis and Mitochondrial Dysfunction in Mice, Qiancheng Zhao et al., ACS Nano 2025, 19, 5, 5589–5603