プラスチック添加剤が子どものホルモンに関連
-北海道出生コホートによる思春期前後のホルモン変化の調査-
本報告は、国際的に評価される環境健康分野の学術誌に掲載された論文(※)の内容を、非専門家にも理解しやすい形で紹介するものです(一部省略あり)。
■ 背景
プラスチック製品や家具、家電には、**火災時の延焼を防ぐ「難燃剤」**や、**素材を柔らかくする「可塑剤」などの添加剤が使用されています。中でもリン酸系難燃剤・可塑剤(PFRs:organophosphate flame retardants and plasticizers)**は、これまでの臭素系難燃剤より毒性が低いとされ、代替物として利用が広がっています。
こうしたPFRsは、私たちの日常生活環境に存在し、子どもたちも日常的に曝露されています。最近では、これらの物質が内分泌かく乱物質(ホルモンの働きを乱す可能性のある化学物質)として作用するのではないかという懸念が高まっています。しかし、子どものホルモンに対する影響を調べた研究は、まだ多くありません。
■ 調査の目的と方法
本研究は、北海道で実施されている「北海道出生コホート研究(※注1)」に参加している9~12歳の子ども429人を対象に、PFRsの曝露とホルモンとの関連を評価したものです(調査期間:2017年9月~2020年3月)。
尿検査では、体内でPFRsが分解されたあとに出てくる代謝物13種類を測定。
血液検査では、成長や性、ストレスなどに関わるホルモン18種類(性ホルモン・ステロイドホルモン)を測定しました。
統計分析では、単一の化学物質の影響だけでなく、複数のPFRに同時に曝露された場合の影響も評価しました。
■ 男の子に見られた影響
PFRの一部(TCIPPやTBOEP)と、**女性ホルモンの一種である「エストラジオール」**の間に、正の関連(増加傾向)が確認されました。
一方で、男性の性機能に関わるホルモン(INSL3、LH)とは負の関連(減少傾向)がありました。
複数のPFRに同時にさらされた場合、女性ホルモンが増加し、ストレスホルモン(コルチゾールなど)や生殖ホルモンの一部が減少する傾向が見られました。
■ 女の子に見られた影響
男性ホルモンの一種であるアンドロステンジオンやテストステロンが、PFRの一部と正の関係を示しました。
一方で、**ストレスホルモンや生殖関連ホルモン(INSL3)**が減る傾向も確認されました。
PFRの混合曝露が、これらの傾向をより強める可能性があることも示されました。
■ この研究の意義
思春期は身体の成長や性の発達において非常に重要な時期であり、ホルモンバランスの乱れは将来の健康や生殖機能に影響を及ぼす可能性があります。
本研究は、日常的に使われている化学物質が、子どもの体内ホルモンに実際に影響を及ぼしている可能性をデータに基づいて示した重要な成果です。今後、化学物質の管理や子どもの健康を守る政策づくりの基礎資料として活用されることが期待されます。
※注1:出生コホート研究とは、ある時期・地域に生まれた子どもたちを長期間追跡して、生活環境と健康の関係を調べる研究手法です。北海道出生コホート研究は、日本で代表的な環境疫学調査のひとつです。
※参考文献
Atsuko Ikeda et al., Phosphate Flame Retardants and Plasticizers and Their Association with Reproductive and Steroid Hormone Levels among Peripubertal-Aged Children: The Hokkaido Birth Cohort Study. Environ. Sci. Technol. 2025, Vol 59/Issue 10. https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.4c11436