精液から検出されたマイクロプラスチック —プラスチック容器と男性不妊リスクの関係
プラスチック製食器の使用が、精子の質に悪影響を及ぼす可能性があるという研究結果が発表されました。特にポリスチレン製の微小プラスチックが精子の減少や異常に関係していることが示されています。
1.研究の背景と目的
世界中で不妊に悩むカップルは約15%にのぼり、その半数は男性側の要因によるものです。近年、精子の数や質が年々低下していることが報告されており、その原因のひとつとして「環境中の化学物質」が注目されています。その中でも、「微小プラスチック(マイクロプラスチック)」は、国連環境計画が「世界的な懸念事項」として挙げるほど深刻な問題です。
この研究では、プラスチック製の食器(特にテイクアウト容器)を頻繁に使う人ほど、精液中のマイクロプラスチックが多く、精子の質が低下しているという関連性を調べました。
2.研究の方法と結果
- 中国の200人の男性の精液を調べたところ、約55%からマイクロプラスチックが検出されました。
- 主な種類は「ポリスチレン(PS)と塩化ビニル(PVC)」で、これらはテイクアウト容器に多く使われています。
- プラスチック容器の使用頻度が高い人ほど、精液中のマイクロプラスチック量が多い傾向がありました。
- 特にBMI(体格指数)が24未満(やせ形)の人や、頻繁にプラスチック容器を使う人では、精子の濃度が低下していました。
3.動物実験からわかったこと
マウスにポリスチレン製のマイクロプラスチックを与えたところ、以下のような変化が見られました:
- 精子の数や運動能力が低下
- 精子の形に異常(尾が二本、頭の形が変など)
- 精巣の細胞が自ら死んでしまう(アポトーシス)や分解される(オートファジー)現象が増加
これらは、FOXA1という遺伝子が関係する「p38」という細胞内の経路が活性化されることによって起こることがわかりました。
4.注釈
- マイクロプラスチック(MPs):直径5mm以下の微細なプラスチック片。環境中に広く存在し、食品や水、空気などを通じて体内に入る可能性があります。
- ポリスチレン(PS):発泡スチロールやテイクアウト容器などに使われるプラスチック。
- FOXA1/p38経路:細胞の生存や死に関わる重要な信号伝達経路。環境ストレスに反応して活性化されることがあります。
5.私たちにできること
この研究は、日常的に使っているプラスチック製品が、私たちの健康に影響を与える可能性があることを示しています。特に、使い捨てのプラスチック容器を減らすことが、未来の世代の健康を守る一歩になるかもしれません。
プラスチックを減らす選択は、環境だけでなく、私たち自身の体にも優しい選択です。
出典:Jiayuan Qu, Jiayue Zeng, Li Mou, Xiaobin Wu, Mei Ha & Changjiang Liu. *Plastic tableware use, microplastic accumulation, and sperm quality: from epidemiological evidence to FOXA1/p38 mechanistic insights.* Journal of Nanobiotechnology, 23:634 (2025). https://doi.org/10.1186/s12951-025-03747-7

