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減らそうプラスチックの会

人工芝の問題点 ―便利な人工芝の大きな代償―

人工芝グランドの芝

 人工芝が増えています。最近では、サッカー場や野球場だけでなく、保育園や幼稚園の園庭、小中学校や高校、大学のグラウンド、そして家庭の庭や公園などでもよく見かけるようになりました。世界の人工芝市場の年平均成長率は6.5%(2023-2028年)と予測され、アジア太平洋地域の需要の高まりが期待されています※1。しかし、人工芝には環境面でも健康面でも重大なリスクがあります。

人工芝施設はマイクロプラスチックの「点汚染源」

 環境調査を手がけるピリカは、河川や港湾など国内120地点でマイクロプラスチックを調べた結果、人工芝が最も多く23.4%を占めたと報告しました(日本経済新聞2021年3月26日)。とりわけ、玄関マットやゴルフ練習場などで使われる射出成型で作られた人工芝が多かったそうです。

 この調査は、網目0.3㎜のプランクトンネットを搭載したマイクロプラスチック採取装置を使用したため、少し大きめの芝片が回収されたものと思われます。サッカー場やテニスコートで使われる人工芝があまり見つからなかったのは、押出成型人工芝の破片の多くはもっと小さいため、回収できなかったのではないかと考えられます。

 関東学院大学の鎌田素之准教授が、雨天時に人工芝のサッカーグラウンドとテニスコート周辺にある側溝を調べたところ、膨大な量の人工芝片(マイクロプラスチック)が側溝に流れ込んでいました※2。雨の降り始めには平均長径0.09㎜の芝片が側溝に流れ込み、その後徐々にマイクロプラスチックの長径が大きくなり、最終試料の平均長径は0.22㎜だったそうです。

 人工芝グラウンドの周辺を歩くと、千切れた芝片やゴムチップが散らばっています。ゴムチップとは丈の長いロングパイル人工芝を立たせるため、またクッション性を高めるために、芝の隙間に充填するチップです。黒ゴムチップと呼ばれる古タイヤなどを破砕して作られたSBR(スチレン・ブタジエンゴム)製のものをはじめ、チップ用に新たに製造されたEPDM製(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)やTPE製(熱可塑性エラストマー)のものなどがあります。

 スウェーデンの政府委員会報告書「環境中のマイクロプラスチック2019」※3によると、人工芝サッカー場1面には60から70トンのチップが使用されます。このうち飛散する量は、年間550kgと推定されています。飛散した分は補充しなければなりませんが補充量は自治体ごとに大きく異なるとのこと。20の自治体に聞き取り調査を行ったところ、サッカー場1面につき年間約500kgのチップを補充していると回答した自治体もあれば、年間5トン補充していると回答した自治体もあったそうです(Krång et al., 2019)。

 飛散したマイクロプラスチックはどこへ行っているのでしょうか。人工芝ピッチ付近の川底の堆積物を分析したノルウェーの研究報告によると、100以上のサンプルの85%からチップが検出され、人工芝ピッチに由来すると推定されました。飛散したゴムチップの一部は、川底の泥に溜まっていることは間違いありません。また、魚に食べられてしまうゴムチップもあることは、日本の研究でも明らかです。

化学物質や重金属も人工芝から流出する可能性

 人工芝の問題点はマイクロプラスチックだけではありません。人工芝には多くの化学物質が使われています。例えば、UV-328やノニルフェノールなど環境ホルモンと呼ばれるものが含まれています※4。UV-328は2023年5月、残留性の高い有害な化学物質を規制するストックホルム条約で禁止することが決まった紫外線吸収剤です。また、ノニルフェノールはかつて環境省の実験でオスのメダカをメス化させたことが話題になりました。

 また、ゴムチップには亜鉛や鉛などの重金属をはじめ、環境ホルモン作用のあるフタル酸エステルや、強い発がん性をもつベンゾピレンなどのPAH(多環芳香族炭化水素)も含まれています※5。また、アメリカでは人工芝からPFAS(有機フッ素化合物)が検出され、問題になっています。そのため、ボストン市などでは人工芝の新たな敷設が禁止されました※6。PFASは最近、日本でも発がん性や環境ホルモン作用が問題視されていますが、水に溶けやすいため地下水を汚染する可能性があります。

 環境ホルモンは本物のホルモンの働きをかく乱してしまう物質で、とりわけ精子や卵子、発達期の子ども達への影響が大きいと言われています。そのため、もし人工芝やゴムチップが口に入ったり、小さくなった破片(マイクロプラスチック)を鼻から吸い込んだり、あるいは触れた際に皮膚から化学物質が吸収された場合、健康への影響が心配です。

人工芝は焼却もリサイクルも困難

 人工芝は、およそ10年で張り替え時期を迎えます。一見、まだ使えそうに見えたとしても、紫外線で劣化しているため、マイクロプラスチックがより発生しやすくなっています。古いものは処分しなければなりません。家庭で使った人工芝はそれぞれの自治体の規定に合わせてカットし、可燃ごみなどに出すことができますが、グラウンドなどで使われた人工芝は焼却もリサイクルも困難です。

 人工芝を燃やすためには大量の砂やゴムチップを払い落とした上で焼却炉の受入サイズに合わせてカットする必要があり、手間がかかります。また、人工芝のようなプラスチックを材料リサイクルするためには、まずきれいに汚れなどを落とした上で、同じ種類の樹脂だけを集めなければなりません。もし仮に、芝部分もベースの布(基布)もどちらもポリエチレンであったとしても、基布の裏には強度を高めるため合成ゴムなどが貼られています。リサイクルするためには、芝を基布から引き剥がす必要があり、やはり手間がかかります。そのため、張り替えで用済みとなった人工芝の多くは、そのまま産業廃棄物として処分場に埋め立てられることになります。ごみの埋立地は全国的に逼迫しており、新たに作るのはとても大変です。

便利な人工芝の大きな代償

 人工芝の下では、陸上生態系を支え土を豊かにしてくれるミミズも暮らすことができません。生物多様性が劣化し、土壌の保湿性も失われるので大雨による川の氾濫も懸念されます。また、ポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチックは太陽光にさらされると、メタンなどの温室効果ガスを発生させます※7。人工芝が地球温暖化を進める原因になってしまうということです。さらに、夏は気温が30度程度でも人工芝上は60度を超えますから、プレーヤーは十分な熱中症対策が必要でしょう※8

 しかも、プレーヤーからは「ケガをしやすい」「足腰に負担がかかる」などの声も聞かれます。秩父宮ラグビー場の移転反対署名を集めている元ラグビー日本代表の平尾剛さんも、反対理由の1つに人工芝グラウンドになることを挙げ、「選手はヤケド傷を負うこともある。大きな怪我も増えるだろう」と書いています※9。また、元プロテニス選手の伊達公子さんも、砂入り人工芝コートは足腰への負担が大きい上、バウンドが低いことを指摘。人工芝に慣れてしまうと世界では勝てないとして、ハードコートを推奨しています※10

 人工芝は草刈りの必要もなく、雨天でもプレーできるなど、確かに便利です。しかし、その代償はあまりに大きく、代償を払うのは現世代だけではありません。今一度立ち止まり、本当に人工芝を敷く必要があるか、一体誰のために敷くのか、考え直してみませんか。

出典

※1 Press Walker(2023年11月15日)https://presswalker.jp/press/28054

※2 鎌田素之「蛍光染色法による人工芝由来のマイクロプラスチックの環境負荷量の検討」『EICA』(2022)

※3 Microplastics in the Environment 2019 https://www.naturvardsverket.se/globalassets/media/publikationer-pdf/6900/978-91-620-6957-5.pdf

※4 高田秀重「プラスチックと環境ホルモン」『子どものしあわせ』(2023.7)

※5 国立医薬品食品衛生研究所プレスリリース(2017.6.30)https://www.nihs.go.jp/dec/list/20170630.pdf

※6 ガーディアン(2022.9.30) https://www.theguardian.com/environment/2022/sep/30/boston-bans-artificial-turf-toxic-forever-chemicals-pfas

※7 環境展望台(2018.8.24)https://tenbou.nies.go.jp/news/fnews/detail.php?i=25020

※8 濱口他「ロングパイル人工芝グランドにおける暑熱環境とサッカー・プレーヤーの脱水との関連」『身体教育医学研究』2013年

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpem/14/1/14_17/_pdf

※9 change.org「秩父宮ラグビー場をこの地で継承したい。「ラグビーの聖地」の移転・改悪を止めよう。」https://www.change.org/p/秩父宮ラグビー場をこの地で継承したい-ラグビーの聖地-の移転-改悪を止めよう

※10 『「“体にやさしい”は思い込み」伊達公子が批判… 日本で5割を占める“砂入り人工芝”コートと、育成の大改革案とは』https://number.bunshun.jp/articles/-/847320

R.Kurioka