はじめに
空気中には、目に見えないほど小さなマイクロプラスチックやナノプラスチックが漂っています。今回の研究では、これらをマウスに12週間吸入させたところ、マイクロプラスチックの方が肺に多く残り、肺機能の低下や炎症がより強く起こることが分かりました。また、肺がんでみられる初期の細胞変化に似た変化も確認され、切除したヒト肺がん組織からマイクロプラスチックも検出されました。
この記事のポイント
- マイクロプラスチックはナノプラスチックより肺に蓄積しやすかった。
- マウス実験で肺機能低下や炎症がより強く確認された。
- 肺がんに関連する初期の細胞変化が認められた。
- ヒト肺がん組織からマイクロプラスチックが検出された。
- 肺がんとの因果関係は確認されておらず、今後のヒト研究が必要である。
研究の背景
私たちは日常生活の中で、タイヤの摩耗粉や衣類の繊維などに由来するマイクロプラスチックを吸い込んでいます。しかし、粒子の大きさによって肺への影響がどう違うのかはよく分かっていませんでした。
特に、マイクロプラスチック(数マイクロメートル程度)と、さらに小さいナノプラスチック(1マイクロメートル未満)のどちらが肺に強い影響を与えるのかは明らかではなく、長期間吸い込んだ場合の影響を調べる必要がありました。
今回の研究
この研究はマウスを用いた動物実験です。研究チームは、環境中で想定される量のマイクロポリスチレン(mPS)とナノポリスチレン(nPS)を12週間にわたり吸入させました。その後、肺の大きさや運動能力、肺の組織を顕微鏡で観察した結果、肺の炎症の程度、さらに肺でどの遺伝子が働いているかを詳しく調べました。
また、ヒト研究として、手術で切除された肺がん組織にマイクロプラスチックが含まれているかも調査しました。この調査は存在を確認したものであり、肺がんの原因を調べた研究ではありません。
主な結果
マイクロプラスチックの方が肺への悪影響が大きかった
マイクロプラスチックは、ナノプラスチックよりも肺への影響が強いことが示されました。
マイクロプラスチックを吸入したマウスでは、肺の中により多くの粒子が残り、肺容量が小さくなり、運動能力も大きく低下しました。顕微鏡で肺を観察すると、炎症や組織の傷みもより強く認められました。
これらの結果から、プラスチックの大きさは肺への悪影響を左右する重要な要因であることが示唆されました。
肺の細胞で「増殖しやすくなる仕組み」が働いていた
マイクロプラスチック、ナノプラスチックのどちらでも、肺の細胞が増えやすくなる仕組みが活発になっていました。
研究では、細胞に「増えなさい」という指令を伝えるEGFRというたんぱく質の働きが強くなっていました。また、その働きを助けるAREGやMAP3K13という分子も増えていました。
EGFRは肺がんを含むさまざまながんで活性化することが知られています。そのため今回の結果は、マイクロプラスチックを吸い込むことで、肺がんでみられる変化と共通する初期の変化が肺の細胞で起こる可能性を示したものです。ただし、この研究だけでマイクロプラスチックが肺がんを引き起こすことを証明したわけではありません。
ヒト肺がん組織からマイクロプラスチックを検出
研究チームは、切除したヒト肺がん組織からマイクロプラスチックを検出しました。
これは、マイクロプラスチックが人の肺組織に入り込むことを示す新たな結果です。一方、この結果だけでは、マイクロプラスチックが肺がんの原因であるとは言えません。
この研究で分かったこと
今回の研究から、ポリスチレン製マイクロプラスチックはナノプラスチックより肺に残りやすく、肺機能の低下や炎症をより強く引き起こすことが分かりました。また、肺の細胞では、肺がんでみられる変化と共通する初期の変化が起こる可能性も示されました。
この研究の意義
これまでナノプラスチックは体内のさまざまな臓器へ移行しやすいことから、その健康影響が注目されてきました。一方、本研究は、吸い込まれたマイクロプラスチックは肺に長く残り、肺機能の低下や慢性的な炎症を引き起こすだけでなく、肺がんに関連する細胞の働きまで変化させる可能性があることを示しました。
また、マイクロプラスチックの方がナノプラスチックより肺への影響が強かったことから、吸入による健康リスクを評価する際には、粒子の大きさも重要な要素になることが示されました。
研究の限界
今回の研究は主に動物実験であり、人で同じことが起こるかはまだ分かっていません。また、ヒト肺がん組織からマイクロプラスチックは検出されましたが、肺がんとの因果関係を示したものではありません。
今後は、人を対象とした長期的な研究によって、マイクロプラスチックの吸入が肺の病気や肺がんの発症にどのような影響を与えるのかを調べる必要があります。
この研究の信頼性
本研究は、動物実験で肺機能や組織の変化、遺伝子の働きを詳しく調べ、さらにヒト肺がん組織の分析を組み合わせた質の高い基礎研究です。一方で、ヒトでの健康影響や肺がんとの因果関係を示した研究ではないため、今後は疫学研究や臨床研究による検証が必要です。
文献
Shanmugiah J, Kim S, Jeong H, Kong J, Lee SS, Kang DK, Kim JS. Size-dependent pulmonary toxicity of inhaled micro- and nano-polystyrene and initial identification of microplastics in human lung cancer tissue. Journal of Hazardous Materials. 2026. doi:10.1016/j.jhazmat.2026.141897

