投稿者:減らそうプラスチックの会 編集部|2026年8月28日公開
オーストラリア・クイーンズランド大学の研究チームは、使い捨て紙コップに熱い飲み物を入れると、内側のプラスチックからマイクロ・ナノプラスチックが放出されると発表しました。生分解性素材PLAのコップは、従来のPEのコップより放出量が多いという結果でした。
この記事のポイント
- 熱い飲み物を注ぐと、紙コップの内側のプラスチック膜からマイクロプラスチック・ナノプラスチックが放出されることが、査読論文で示されました。
- 生分解性素材「PLA」を使ったコップは、従来の石油由来プラスチック「PE」のコップに比べ、放出された粒子の総質量が約12倍多いという結果でした。
- 研究チームは、生分解性素材だからといって粒子放出が少ないとは限らないとして、食品接触材料の安全性評価や製品表示の見直しを呼びかけています。
- ただし、プラスチック粒子が健康にどのような影響を与えるかは、現時点ではまだ十分に分かっていません。
今回発表された内容
クイーンズランド大学のエルビス・オコフォ博士らの研究チームは、紙コップの内側を覆うプラスチックの膜に着目し、実験室での分析研究を行いました。ヒトや動物を対象とした実験ではありません。対象としたのは、従来から使われている石油由来プラスチック「ポリエチレン(PE)」でコーティングされたコップと、生分解性プラスチック「ポリ乳酸(PLA)」でコーティングされたコップの2種類です。
研究チームは、それぞれのコップに熱い水を入れ、溶け出したプラスチック粒子を複数の分析装置で調べました。その結果、両方のタイプのコップから微小なプラスチック粒子が放出されることが確認されました。査読誌に掲載された論文によると、放出された粒子の総質量は、PLAのコップがPEのコップの約12倍に達したとしています(PLA約11.6マイクログラム/リットル、PE約0.9マイクログラム/リットル)。
一方、大学の発表資料では、ナノプラスチックの「個数」についても紹介されており、PLAのコップから1ミリリットルあたり約430万個、PEのコップから約270万個の粒子が検出されたとしています。これは粒子の「個数」を示す指標であり、先述の「質量」ベースの12倍という数値とは算出方法が異なるため、単純に比較できない点にご注意ください。
なぜ重要なのか(日本への示唆を含む)
使い捨ての紙コップは、コーヒーやお茶など、日本を含む世界中で毎日大量に使われています。「紙コップ」と呼ばれていても、水分を通さないようにするため内側にプラスチックの薄い膜が使われていることが多く、今回の研究は、その膜自体がプラスチック粒子の発生源になり得ることを示しました。
これに対し、生分解性プラスチックはこれまで「環境に優しい」というイメージで導入が進められてきましたが、今回の結果は、生分解性であることと、使用中の粒子放出量が少ないことは別問題である可能性を示しています。日本でも、環境配慮を理由に紙コップやPLA製容器への切り替えが進められていますが、素材を選ぶ際には粒子放出の観点も考慮する必要があるといえそうです。
ただし、オコフォ博士自身も述べているとおり、プラスチック粒子が人の健康にどのような影響を与えるかは、現時点ではまだ十分に分かっていません。
今後の課題と見通し(注意点・限界を含む)
今回の研究は、実験室内で限られた数のコップを対象に行われたものであり、実際の店舗での使用条件や、コップの製造方法の違いによって結果が変わる可能性があります。また、放出されたプラスチック粒子が人体にどの程度取り込まれ、健康にどのような影響を及ぼすのかについては、今後さらに研究が必要とされています。
研究チームは、食品と接触する容器の安全性評価に微小・ナノプラスチックの放出試験を組み込むことや、素材に関する情報を消費者に分かりやすく表示することを検討するよう、政策担当者や規制当局に呼びかけています。あわせて、粒子の放出が少ない容器素材の開発も期待されると述べています。これらは研究チームからの提言であり、現時点で決定した制度ではない点にご留意ください。
よくある質問
Q. 紙コップを使うのをやめたほうがよいですか? A. 研究チームは、直ちに使用をやめる必要はないとした上で、粒子の放出量や健康影響についてはさらなる検証が必要だとしています。
Q. マイクロプラスチックとナノプラスチックは何が違うのですか? A. 一般に、大きさが5ミリメートル以下のプラスチック片をマイクロプラスチック、1000ナノメートル(1マイクロメートル)未満のごく微小な粒子をナノプラスチックと呼びます。今回の研究では、その両方が紙コップから検出されました。
まとめ
クイーンズランド大学の研究チームは、使い捨て紙コップの内側のプラスチック膜から、熱い飲み物によってマイクロプラスチックやナノプラスチックが放出されることを明らかにしました。特に生分解性プラスチックPLAのコップは、従来のPEのコップに比べて、放出された粒子の総質量が約12倍多いという結果でした。この結果は、「生分解性だから安全」と単純に判断できないことを示しており、今後、容器素材の安全性評価や表示のあり方を考える上での参考材料になると考えられます。ただし、健康影響そのものはまだ解明されておらず、引き続き研究の動向を注視する必要があります。
私たちにできること
今回の研究結果を受けて、使い捨て容器の素材や使用頻度について改めて考えてみるという選択肢があります。可能な範囲で繰り返し使えるマイボトルやマイカップを選ぶことも、プラスチック粒子との接触を減らす一つの方法です。
用語解説
【マイクロプラスチック】一般に大きさが5ミリメートル以下のプラスチック片を指します。
【ナノプラスチック】マイクロプラスチックよりもさらに小さい、1000ナノメートル(1マイクロメートル)未満の微小な粒子を指します。
【生分解性プラスチック(PLA)】とうもろこしなどの植物由来原料から作られ、微生物などによって分解されるとされるプラスチックの一種です。ポリ乳酸とも呼ばれます。
情報源・参考資料
【査読論文】 Ke Shi, Elvis D. Okoffo, Cassandra Rauert, Kevin V. Thomas「Release of Nanoplastic and Microplastic from Polyethylene and Polylactic Acid Lined Single Use Paper Cups」ACS Food Science & Technology、2026年8月、DOI: 10.1021/acsfoodscitech.6c00541
【大学発表資料】 クイーンズランド大学「Takeaway cups release microplastics into your coffee」2026年8月27日
本記事は医学的助言を目的としたものではありません。

